安保防衛力懇談会の役割

10月5日の各紙社説は全て防衛懇談会の報告書に関するものになっていた。日米再編問題を背景にした重要な指針、防衛計画大綱概略との関連で興味深い報告書と受け止めている証拠だろう。

「安全保障と防衛力に関する懇談会」は小泉首相の私的諮問機関ではあるが、在日米軍再編、自衛隊法改正、防衛計画大綱の改定、さらには武器輸出3原則の解禁も含めた総合的な日本の防衛軍備力のあり方を決定するもので、単なる懇談会ではない。なるほど、懇談会メンバーは所謂超タカ派といわれる委員は10人のうち半数を占めるが、他に常識に適った論客も居る。懇談会発起の主目的の一つが、新たな防衛計画の大綱をつくる為の屋台骨を提示することである。

しかし今の日本の常識そのものが安保条約を基盤にした国益主義であることから、その方向性は自ずと見えていたとも言える。その証拠は、タカ派の五百旗頭氏とハト派の山崎正和氏であるが、両者とも屈指のアメリカ通である。さらに柳井俊二氏は前駐米大使、トヨタ自動車社長の張 富士夫氏とくれば、自ずと如何に米国の要求をかわしながら国益に繋げるかの一点しかないと推測する方が妥当であろう。
 
社説表題「防衛懇報告―期待はずれだった」を掲載したのが、最近頓に戦前の癖、迎合主義が出てきた朝日新聞の社説である。朝日新聞は「イラク戦争が違法である」という事実を検証することも無く、この社説の冒頭で「テロや大量破壊兵器の拡散の脅威。それに立ち向かわなければならない時に、」と主張した。9・11事件、イラク戦争における「テロ」と「大量破壊兵器の拡散」の定義と意味を精査することなく、イラク問題を「テロ」の一語に簡略集約したことは、マスコミ言論会の政府見解の垂れ流しを助長、定着させた公罪の責任回避は糾弾に値する。また、全く富の無い国、アフガニスタンへのアメリカ軍の攻撃がもたらした現況へのアプローチを言論界として無視し続けている体制も然りである。

本題に戻って述べる。内容的には「基盤的防衛力」から「多機能弾力的防衛力」への転換は評価している。それは武器輸出3原則をも認めた見解になっている。問題を呈しているのは「今の世界で日米同盟がなぜそれほど大切なのか、日米の一体化を進めることが日本の平和に役立つのか、などについての検討がない。まず日米同盟の強化ありき、なのだ。」という文言である。

「日米の一体化」は日本の平和に役立たないことは、先日、アルカイダから正式に攻撃対象に格上げされた事実が、社説冒頭で主張している現実を反映している。同盟の強化はますます日本を脅威に強いるそのことは自明の理である。この共通認識を持ちながらこの期に及んで、どこに気兼ねして、日米安保の検討を促すような回りくどい言説を披露しなければならない理由が理解できない。それに比べて、最も明解に主張している社説は日経新聞である。

「冷戦時代にできた「基盤的防衛力」にかわって報告書が打ち出した「多機能弾力的防衛力」は、それに通じる発想であり、自衛隊の構造改革である。」と評価している。さらに産経新聞、読売新聞は「集団的自衛権」の行使容認を認めるよう叱咤激励文になっている。毎日新聞は、朝日新聞が産経新聞から批判を受けている日和見主義を回避する為に、ひたすら講釈論議、『「多機能弾力的防衛力」と名付けた。

だが、いずれもわかりにくい概念で、理念としての具体的なイメージはわいてこない。』とイメージ論で反って読者を煙に巻くような論述になっている。そして最後は、何時もの「国民合意」節が披露される。然らば毎日新聞に聞く、国民が合意すれば全てが認められるのか。またその合意の基準はどのように測られるのか。

つい最近、国民の6割強が反対した法案、「有事法制」が国会では9割強で可決賛成されたことは、よもやお忘れではないだろう、この整合性をどう説明するのか。それこそ概論は理解できるが、理念がないと言わざるを得ない。朝日新聞の「日和見」と大差ない巧妙さが加わっただけである。各紙社説を総論すれば、一点共通して見て取れる解釈は、「日本の自助防衛の確立」が必要であるとの見解が主張されていることだ。

つまりは、国民がそれを求めていると高を括って、権力者の代行に各紙が成り下がっている。正に戦前の様相そのものになっている。