不老館問題を検証する

和歌山市長  大 橋 建 一  殿

      要 請 書


私達は和歌の浦の自然、文化を愛する仲間です。
昨年から、否、数十年前から和歌の浦の地域は行政の下に様変わりを強いられてきています。そして言えることはその結果は決して住民が望んだものではないということです。一つには常に、一部の利権団体、利権者によって進められてきたことを否定できないという事実です。もう一つは私達住民の無関心がそうさせてきたとも言えます。

私達にとって、1月6日と23日の新聞報道は、今日の市政においても旧態依然の行政そのものでしかないことに唖然とさせられるものでした。1月6日は全国版、旅田前市長の汚職事件に依る逮捕の報道です。汚職の舞台は和歌の浦のもう一つの代名詞「不老館」です。元料亭旅館不老館が閉館して、地域住民の間で話題になったと思いきや3ヶ月半後に取り壊された事実、70年余の歴史が地域住民、市民に知らされることなく忽然と一つの景観が抹消された経緯を知った日です。

23日の報道で、「不老館」跡地に近日中完成予定の芸術文化施設(仮称)「夢舞台万葉不老館」の新名称が発表されました。芸術文化活動の発表の場所としての施設「和歌の浦アート・キューブ」の名称がそれです。昨年7月から新名称を一般公募していた訳ですが、この時期に発表する真意は、施設完成を目前に控えての苦心の結果としか思えません。たとえこれらの憶測を払拭したとしても、この新名称を広報するに当たり、行政としての一片の釈明、今日に至る経緯等の発表がなかったことの理不尽な対応は市民を愚弄しているとしか考えられません。

私達市民に与えた「不老館事件」の影響は、呆れるほどの怒りもさることながら殊の外重大な問題提起があると考えられます。
先ず、新聞報道は全国版で連日行われました。ことの重大性をアピールしたのでしょう。ここに、私達の事件に対する素朴な気持ちを代弁している一市民の発言を紹介します。「和歌山市の悪いイメージが全国に広がるのは市民として恥ずかしい。相次いでトップが逮捕されるのは、市政全体が腐敗している証拠だと思う。職員も不正に慣れてしまっているのではないか」(朝日新聞1月7日朝刊)というものです。マスコミによるこのような市政内部批判は連日掲載されています。しかし、よくよく関連記事を読めば、「職員も不正に慣れてしまっている」という件は、実は私達市民に発せられたメッセージだということに我々は気づきました。

問題の発端は2000年の初めです。この年が市の腐敗体質と市民のなおざりな体質とが相俟って、不老館の解体、市の跡地買収、新施設の計画と一気に不老館事件の全貌が出来上がっていった年度です。

ここでの腐敗体質とは何か。企画部テーマパーク推進室において「和歌浦湾地域振興ビジョン策定委員会」が不老館問題について協議を進める傍ら、観光振興室が土地の購入を進めていたという経緯は、委員会で保全活用の議論が行われている一方で問題の建物が壊されている状況を指します。また、壊したものは仕方ないので新計画に市民が便乗しましょうと言うのが、市民のなおざりな体質ということです。
そこで始まったのが、地域の文化、芸術を全国に発信するという御題目を並べ、透明性と公平性を謳う為にプロポーザル方式の設計計画を打ち出せば市民が納得するであろうし、また、それを受け入れる気運が市民にもあることを見抜いての新施設計画でした。芸術とスポーツが絶大なる市民性を堅持していることに高を括り市民に結果説明すれば事足りるとの考えだった訳です。

「不老館事件」は正に「市行政の腐敗体質」と「市民のなおざり体質」が双方向に相乗りしておきたといえます。5日の旅田前市長の容疑逮捕から29日の収賄罪で起訴されたとの新聞報道まで、大橋市長の声明は一貫して「不老館事業は進める」というものでありました。そして、捜査は警察の手に任せたほうがよい。市独自の調査はしないほうがよい、さらにお墨付きは「中止は多大な損失を受けることになる。活用することが市民の期待に応えることになる」(朝日新聞1月7日)という見解を取り続けています。

23日拘置理由開示裁判における旅田前市長の意見陳述は「土地は市からお願いして買収したもので礼を受ける筋合いではない」と陳述しています。また、市議の一人は「金もうけをするために立ち上げたとしか思えず、市民に対する背任行為だ」と指摘しています。一般的に理解して、市が土地を買収して、結果的に市民に対する背任行為であった現実は事実として残った訳です。
「独断専行」、「トップダウン」手法で前市長自身が始めた事業との現市行政見解ですが、A4判の申請書1枚に11億円と記載されて、それが即現在の「「和歌の浦アート・キューブ」の建築物になった訳ではありません。全くの「チェック機能なし」ということであればそれこそ市行政内部の調査が必要ではありませんか。これを市独自で行わずして誰が行うのですか。飽く迄も警察は収賄容疑を解明、追及するものであって、2代続いた市長の汚職事件を解明、調査するのは、市行政自体であることを忘れてはなりません。

市長にお尋ねしたい。何を根拠に「活用することが市民の期待に応えることになると思う」のですか。説明責任を果たさずの発言は故意に市民感情を逆なでするものであり、市民を愚弄しているとしか考えられません。このような無責任、事なかれ主義の発言の背景には、この1ヶ月間において、市長、市職員と市民は擬似的「被害者」意識を共有するところから来ているものと考えられます。「不老館事件」は旅田前市長個人の不法行為になりつつあります。「臭いものに蓋をする」、その臭いものとは前
市長と「市行政そのもの」であるということを肝に銘じて不老館事件を考えねばとんでもない禍根を残すことになります。

「不老館事件」が提起する財政問題も「市行政の腐敗体質」を顕著に表沙汰にしつつあります。昨年11月26日、財政健全化計画が発表されました。財政再建団体への転落危機回避を謳ったものです。転落危機の最大の課題は他にあるにしても、今回の「和歌の浦アート・キューブ」事業は、財政再建を圧迫する、また再建団体への転落に拍車を掛けると考えるのが普通です。そして、市職員を大幅に解雇してまで実施しなければならない事業とは、いかなる公共性を持ったものであるかを十分協議し、市民の合意を取り付けての事業計画でなければなりません。それが正常な市民の共通認識です。従って、市行政には現在でも市民性が欠如しているとしか考えられません。即ち、「腐敗」しているのです。それを、「市独自の調査はしない」という市長の見解は、「信頼回復に全力を尽くす」というものから程遠いものです。市の責任所在、市民に対する説明責任を回避する体質が改善されない限り、同じ轍を踏むことになるのは自明の理です。

私達有志は以上の経緯から、「不老館事件」を契機に市民による「行政の腐敗体質」ならびに地域における公共事業のあり方を検証していく為に「不老館問題を検証する会」を立ち上げました。そして、和歌山市長に対して、市政の信頼回復の為に、職員の倫理規定の見直し情報公開の徹底という常套句だけではなく、市の独自の調査を速やかに行い責任の所在を明確にすること、また、疑惑のある事業については中止するという先例に倣い、「和歌の浦アート・キューブ」の運営については不老館事件が提起した問題を真摯に受け止め、決められた計画は予定どおりやらなければという旧態依然の行政手法を改めること、さらに施設の「活用」はこの事件の透明な経緯説明を行った後、市民合意の下で「活用」の方向性を議論することを要請します。
尚且つ、次期議会に向けての運営予算請求等を現状では行わないように市長の翻意を促します。

            
不老館問題を検証する会
岩畑 正行
2003年2月13日