緊急に対処せよ 永久凍土

【転載】(1)温暖化 変わる富士

温暖化、解ける永久凍土
スコップを手にした静岡大の学生らが、標高2500メートルの富士山5合目付近から3776メートルの山頂を目指した。平らな場所を見つけては、地表を覆う溶岩などを50センチほど掘り、温度計を埋める作業を続ける。頂上まで計200個が埋められた温度計は、地温を20分おきに記録する。
 山頂の真下には、一年中解けない「永久凍土」の層がある。静岡大は8、9月、静岡県の委託で6年ぶりとなる凍土調査に着手。結果は、1年後に出る。
 永久凍土が徐々に解けている――。国立極地研究所(東京)に、富士山の温暖化を物語るデータがある。
 
1976年の永久凍土の下限は南側斜面で標高3200メートル前後だったが、2001年までの25年間で約300メートル上昇。北側斜面でも2800メートルから約100メートル上がったとみられる。
 北極圏など極地に存在する永久凍土。国内では富士山のほか、北海道・大雪山系と北アルプス・立山で確認された。富士山では、地中50センチ〜数十メートルにあるとみられる。標高が高くなれば地温は下がるが、永久凍土がある地点では地温の下がり方が急激だ。その変化で、永久凍土の下限がとらえられる。
 
76年からの25年間で、山頂の平均気温は年に0・038度のペースで上がった。特に冬場(12〜2月)は0・064度。このペースで100年たつと、6・4度も上昇する計算だ。極地研の藤井理行(よしゆき)所長は、「この7年間で温暖化は加速しており、南斜面の永久凍土の下限が上がっているのは間違いない」と言う。
 西側斜面の「大沢崩れ」では全長2100メートル、最深150メートルにわたって溶岩などが崩落、大規模な土石流が絶えず発生している。硬軟の層が重なっているために崩れやすく、京都大の水山高久教授(砂防学)は「季節によって凍結と融解を繰り返すようになれば、土壌は不安定になり、浸食が加速するだろう」とみる。
 凍土の融解は、山の姿を変えてしまうかもしれない。
 ふもとの山中湖ではかつて、全面結氷する1か月間でスケート靴を履いた子どもたちがはしゃぎ回り、公式大会も開かれた。富士山噴火で誕生した富士五湖の一つで、面積は約6・8平方キロ。湖面標高は981メートルあり、冬は厚さ30〜50センチの氷で覆われていた。
 
人口6000人規模の山梨県山中湖村は、数多くの選手を輩出した。富士急監督として橋本聖子、岡崎朋美両選手らを育てた長田照正さん(58)も、幼いころは友達と湖上を滑るのが日課だった。
 しかし、湖は1984年を最後に全面結氷しなくなった。22年ぶりの全面結氷で沸いた2006年も、1週間たたないうちに解けた。長田さんは「湖はスケート人生の原点。ふるさとの競技人口も減り、大切な文化を失った気分」と話す。
 湖畔で貸しボート屋を営む高村徳江さん(55)の倉庫には、100基余りの「ワカサギ小屋」が眠る。釣り人が木製の小屋で暖を取りながら、氷の穴からワカサギを釣る姿は、風物詩だった。最盛期には20〜30店が小屋を貸し出したが、湖が凍結しなくなってほとんどの店が廃棄した。
 「小屋を処分してしまったら、湖が二度と凍らないと認めてしまうような気がする」。高村さんの目に涙が浮かんだ。

 温暖化を始め、様々な環境や気候の変動は富士山にも及び、山を取り巻く人々の営みも変わりつつある。
(2007年11月6日 読売新聞)
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